デジタル画像の基礎知識(2)画像の細かさと階調

人間の視覚特性

われわれが鑑賞する画像は、プリントアウトにしろモニタ出力にしろ、最終的に人間が目で見ることを目的に作られている。われわれが日ごろ当たり前に使っている(筆者などは酷使している)視覚にもさまざまな特性があり、コンピュータ機器やソフトウェアの仕組みも、それに合わせて工夫されている。

伝統的な手法で描かれた絵画なども、人間の視覚特性を巧みに利用した産物であり、今後デジタルイメージをより良いものにしていくための多くの示唆を内包している。絵画は、人間が外界をどのように見てどう感じているかを、画家の才能と経験により具体的に表現している。最先端のCG技術や画像処理も、絵画の膨大な資産に目を向けることで、より豊かに発展していけると思われる。

人間の視覚は進化の過程で、生活し生存するために役立つさまざまな特性を獲得してきた。

しかし、現在の一般的なモニタや印刷物で、人間が見分けられるあらゆる色や明暗を再現できるわけではない。人間の見える光は可視光と呼ばれ、その波長の範囲はおおよそ380~780nmとされるが、境界は光の強さや観察者によっても変わる。また、光の波長の範囲と、機器が再現できる色の範囲(色域)は同じものではない。RGBモニタや印刷用インクが再現できる色域には限界がある。それでも、視覚の特性を生かして「美しく」見せるために、いくつかのポイントを押さえておこう。

解像度と階調性

高解像度と聞くと何やらありがたいように聞こえるが、いったい人間はどこまで細部を見分けることができるのであろうか。言い換えれば、どのくらいの解像度があれば、ほぼ満足できるのだろうか。

人間の細部に対する識別能力は、観察する距離や明るさ、模様のコントラスト、視力などによって変わる。A4サイズの紙面でも、25cmの距離で見る場合と、離れた場所から見る場合とでは、必要な画像の細かさは異なる。目が受け取る細かさは、紙面上の点の密度だけではなく、視野の中で模様がどのくらいの大きさを占めるかによって決まるからだ。

一般に、細かすぎる模様では、明暗の差が小さいほど見分けにくくなる。ただし、これを「ある解像度では何階調まで見える」という固定した数値に置き換えることはできない。解像度と階調性は関係しているが、解像度を上げると画像全体で見分けられる階調数が一律に減る、というわけではない。

さらに人間の視覚は、ものの輪郭や明暗の境界にも敏感に反応する。文字や線画では、こうした輪郭の再現が特に重要になる。白黒2値のラスター画像にした文字では、ピクセルが粗いと斜線や曲線のぎざぎざが目立つため、写真より高い画像解像度が必要になることが多い。文字や線をベクトルのまま出力できれば、出力機器に合わせて輪郭を描画できる。

それに比べ写真では、細部だけでなく、明暗や色が滑らかにつながる階調性も重要になる。近くで見る写真プリントでは、仕上がり寸法で300ppi程度がひとつの目安となるが、必要な値は出力方式や観察距離などによって変わる。第1回で述べたように、画像のppiと、プリンタが打つドットの密度であるdpiは区別して考えたい。

くじゃくのカラー図。200ppiと記されている
階調のあるカラー図の例(200ppi)
パンダの白黒図。500ppiと記されている
白黒の線画の例(500ppi)

画像の画質を良くするためには、解像度を上げるだけでなく、階調が十分に保たれているかにも目を向ける必要がある。空などの大きくなだらかに変化する面では、階調が不足すると階段状の境目が現れることがある。この現象はバンディング、あるいは階調の段差と呼ばれる。

例えば、RGB各色が64階調なら、色の値の組み合わせは64の3乗で262,144通り、約26万通りとなる。各色256階調なら16,777,216通り、約1678万通りである。各色8ビットの256階調は広く使われているが、これなら必ず段差が見えなくなるというわけではない。画像の内容、編集や圧縮、表示環境によっては、256階調でも段差が目立つ。大きな明るさ・色の調整を行うときには、高いビット深度で階調を保持することが役立つ。

写真がきれいに見える出力条件でも、細かな文字の輪郭には不満が残ることがある。逆に、輪郭が細かく再現されても、写真の階調が乏しければ滑らかな画質にはならない。

結論をいえば、写真と文字の入ったデータを出力するときには、写真の階調性と文字の輪郭の両方を考える必要がある。ひとつの解像度や階調数だけで判断せず、仕上がりの大きさと見る距離、出力機器の特性に合わせて、実際の出力で確かめたい。

ガンマ特性

光の強さを等間隔に変化させても、人間には明るさが等間隔に変わったようには見えない。明るさの感じ方は、光の強さに単純に比例するものではなく、周囲の明るさや、目がどの明るさに慣れているかによっても変化する。

ある条件での明るさの感じ方を、光の強さの約3分の1乗で近似する考え方はある。しかし、「人間の目は正確にY=X^0.33で表せる」という普遍的な法則ではない。また、この視覚の特性と、画像信号や機器の入出力を表すガンマ特性は、区別する必要がある。

画像信号では、光の強さに対して暗い側を細かく、明るい側を比較的粗く刻むように値を割り当てることで、限られたビット数を有効に使える。これは、視覚が相対的な明るさの差に敏感であることと関係している。ただし、薄暗い場所でものを見分けられる仕組み全体が、この数値の割り当てだけで説明できるわけではない。

人間の眼球内の網膜には、桿体(かんたい)細胞と錐体(すいたい)細胞という2種類の視細胞がある。錐体細胞は主に明るい環境で働き、色の識別や細部の見分けを担う。錐体には感受性の高い波長域が異なる3種類があり、それらの反応に基づいて色が知覚される。もうひとつの桿体細胞は弱い光に敏感で、暗い環境での視覚を支えるが、桿体だけでは色を識別できず、細部を見分ける能力も錐体による視覚より低い。

つまり、十分に明るい環境では色や細部を見分けやすく、暗くなると色の違いが分かりにくくなり、主に明暗の情報を頼りにものを見るようになる。自然環境の光の違いが、こうした見え方や表現の経験を通じて、視覚文化の多様性にも影響しているのではないか。これは筆者の推測だが、興味深い問題である。

さらに付け加えると、視覚情報を処理する脳の神経細胞には、特定の向きの線や輪郭などに強く反応するものがあり、視覚の働きは経験や学習によっても変化する。ただし、ある形や物体に一つの専用の神経細胞が対応していると単純に考えることはできない。筆者などにとっては大変興味深い話ではあるが、視覚情報処理のメカニズムには、なお研究が続いている部分も多い。

画像機器に話を戻そう。ガンマ特性は、入力の値と出力の値の関係を、べき乗の曲線などで表すときに使われる。例えば、光の強さを0~1の値X、記録する信号をYとして、単純なモデルでY=X^0.45と変換したなら、その逆はX=Y^(1/0.45)となり、指数は約2.22になる。これは逆変換の計算例であり、すべてのスキャナやテレビにそのまま当てはまるものではない。

実際に広く使われているsRGBでも、信号値と光の強さの関係は、単純な一つのべき乗だけではなく、暗い部分の直線と、それ以外の曲線を組み合わせて定められている。したがって、スキャナで一律に0.33を設定し、出力側で逆数を設定すればよい、ということにはならない。プリンタも、画面の発光とは異なり、インクや紙、照明の影響を受ける。

入力した画像がオリジナルより暗かったり明るかったりする場合は、まずスキャン時の自動補正やトーン調整、画像のカラープロファイル、モニタの明るさや表示設定、印刷物を見る照明を確認してほしい。ガンマ値だけを動かす前に、どの段階で見え方が変わったのかを確かめることが大切だ。